- toki pona li seme? ~トキポナとは何か~
- mi pilin e toki. ~言語について考える~
- pilin pi mi mute li kama pona? ~シンプルに考える訓練になる?~
- toki pona li musi! ~トキポナは楽しい!~
toki pona li seme? ~トキポナとは何か~
概要
トキポナとは、カナダの言語学者・翻訳家ソニャ・ラング によって作られ2001年に公開された人工言語です。
人工言語とは、個人や団体などによって語彙や文法が人為的に作られた言語のことです。対義語は自然言語で呼ばれ、日本語や英語のような文化的背景を持っておのずから発展してきた通常の言語のことを差します。
特徴
特筆すべきは文法のシンプルさと単語数の少なさ。単語数はなんと120ちょっと!
受験勉強で分厚い英単語帳に悩まされた日々を思い出すと語学学習なんてうんざりしますが、120程度の単語ならすぐ覚えられるでしょう。(これを書いている今、私はまだちゃんと覚えていませんw)
そんな少ない単語数で言語が成り立つの?という疑問は当然ですが、少ない単語数でつくられる主観的表現もトキポナの魅力的な特徴のひとつです。
根底にある価値観
「トキポナ(toki pona)」はトキポナで「よい言語/シンプルな言語」という意味です。
toki は「言語」を、pona は「よい/シンプルな」を意味します。(語順は[名詞][形容詞])
toki の対義語である ike は「悪い/複雑な」を意味します。
ようするに、トキポナの根底には "Simple is best." という価値観があるわけです。
ちなみに、「トキポナ語」というと「頭痛が痛い」みたいになるので注意。
mi pilin e toki. ~言語について考える~
トキポナの話から少し脱線しますが、言語が前提にある価値観の上に成り立っているのはなにもトキポナだけではありません。自然言語(普通の言語)にもその国や地域、民族の文化や価値観が反映されているものです。
アラビアのラクダと日本のお米
例として、アラビア語などの砂漠地域の言語では「ラクダ」を意味する単語が複数存在します。8歳以上のオスのラクダは「ジャマル」、6か月までのラクダなら「ハワール」、1年までのラクダなら「マフルード」というように、ラクダの年齢や性別などによって、細かく呼び方が分かれているそうです。
日本語であれば「ラクダ」という単語に「若い」「年老いた」「オスの」「メスの」などの修飾語を付与することで使い分けられますが、アラビア語などの言語ではラクダが生活に深く根付いているがゆえに個別の単語として確立しているものと思われます。
別の例で言えば、日本語の「米」「稲」「ご飯」「お餅」も英語ではすべて rice になります。(ご飯は cooked rice、お餅は rice cake)
日米で異なる"孤独"に対する考え方
もう少し概念的な話でいうと、あなたは「孤独」「孤立」という単語にどういう印象を抱きますか。どちらかというとネガティブなイメージが強いのではないでしょうか。
こ‐どく【孤独】 の解説
[名・形動]1 仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。思うことを語ったり、心を通い合わせたりする人が一人もなく寂しいこと。また、そのさま。「—な生活」「天涯—」
2 みなしごと、年老いて子のない独り者。
「窮民—の飢ゑをたすくるにも非ず」〈太平記・三三〉
こ‐りつ【孤立】 の解説
[名](スル)
1 一つまたは一人だけ他から離れて、つながりや助けのないこと。「敵に包囲されて—する」「—無援」2 対立するものがないこと。「—義務」
一方の英語では「孤独」「孤立」に近い単語には悪い意味のものといい意味のものがあります。(出典:天才英単語)
悪い孤独
loneliness 社会的な孤立感。寂しい。
isolation 分離。排除。仲間はずれ。
desertion 見捨てられる。
いい孤独
aloneness 孤独感。孤立感。自分自身に向き合うきっかけとなることも。
solitude 自分と向き合ういい意味での孤独。
seclusion 隠遁。自己修行や内省。
日本語でポジティブな孤独を表現する言葉は「ぼっち充」くらいしか思いつきません。
しかもこれは近年できたばかりのネットスラングな上に「ぼっち」+「充」の複合語です。
日本人は古来より「ひとり=よくない」という価値観の中で文化を発展させてきたのだと推察されます。
たしか産業革命以前はヨーロッパも集団主義が当たり前だったはずですが、直近200年くらいで「いい孤独」が生まれたのでしょうか。
狩猟採集民族の言語とトキポナ
自然と共に生きる狩猟採集民族が使う言語には数を表す単語が「1」「2」「たくさん」しかないというのは有名な話です。農耕を始めるようになってはじめて数の必要性が生じたのでしょう。
トキポナにおける数を表す単語は、wan(1), tu(2), luka(5), mute(たくさん)と ale(すべて)だけです。たとえば「10」と言いたいときは "luka luka" というと5+5で「10」という意味になります。
また、一部の狩猟採集民族の言語には左右を意味する単語がありません。常に自然の兆候を読みとって方角を把握しながら生きているので、方向を示したいときは方角で表現すればよく、左右という概念が必要ないようです。
なお、トキポナにも左右を意味する単語はありませんが、必要なときは「箸を持つ手」「心臓がある場所」みたいに表現すればいいのでしょうか?
さらに、ゴールデンカムイでおなじみアイヌ語の「アイヌ」「カムイ」などの単語も、彼らの価値観がベースになっていることが伺えます。
pilin pi mi mute li kama pona? ~シンプルに考える訓練になる?~
トキポナは複雑な表現ができないので、強制的にシンプルで抽象的な概念レベルでものごとを考えることになります。
たとえば、「(私は)働きたくない」と表現しようと思ったらこうなります。
mi wile ala pali.
mi 【代名】私(I/my/me/mine)
wile 【助動】~したい、する必要がある、するべきだ、するつもりだ
ala 【形】~ではない(否定文で用いるnotに相当)
pali 【動】働く、活動する
wile ひとつで want も need も should も will も含んでいます。やりたいことはやる必要があるし、やるべきだし、やるつもりだ。シンプルでいいね!
ただこれだと、pali が意味するところが抽象的すぎる。ブログの執筆だって「働く」だ!と主張したら日本では怒られそうな気がするが、トキポナを考える際にはブログの執筆だっておおまじめに pali なのだ。いや、musi かもしれないが。
musi 【動】遊ぶ、楽しませる
あくまで会社労働がしたくないのだということを強調しよう。
mi wile ala pali poka kulupu.
poka 【前】~に伴う,~と一緒に
kulupu 【名】集まり、コミュニティ、グループ、会社
いや、これだと、チームで活動すること自体が嫌だと言っているようにもとれる。
あくまで kulupu ike で働きたくないのだと強調しておこう。
mi wile ala pali poka kulupu ike.
ike 【形】悪い(⇔pona)
あるいは「労働=お金のための活動」が嫌だとするなら。
mi wile ala pali tawa mani.
tawa 【前】~のために
mani 【名】金、富
もしくは「お国のため」なんてクソ食らえだ!
mi wile ala pali tawa ma!
ma 【名】土壌,国,地域,地方
ma では意味が広すぎるか。
「権力者=統治者="上"の連中」のためになんて働くものか!
mi wile ala pali tawa jan sewi mute!
jan 【名】人
sewi 【形】高い
mute 【形】多い(複数形にしたいときにも使う)
う~ん。jan sewi は「神」という意味にもなるんだよな。
神と統治者が同じってなんかやだな。
...と、こうやっていつもとは違う言語で考える経験をしてみると思考が整理されて来ないでしょうか。
toki pona li musi! ~トキポナは楽しい!~
トキポナに便利さを求めるべきではないと私は考えます。
便利さを求めるなら日本語や英語のような自然言語を用いるのが早いでしょう。
制作者いわく、トキポナは芸術言語なんだそうです。
トキポナはその不便さを楽しむものだと思います。制約こそがゲーム性を生むのです。
食べるものは豊富にあるのに常に危機ばかりが煽られ遊ぶ余裕を失ってしまった現代社会では、受動的な「消費」が「遊び」と呼ばれてしまっています。
あるいは「役に立つ(≒お金になる、評価される)」かどうかばかり意識し、「遊び」としての純度の低い活動に走りがちです。
私たち日本人がついがんばりすぎて病んでしまうのは、備えて備えて備えてばかりで遊ぶ余裕をなくしてしまっているせいではないでしょうか。
「備えあれば憂いなし」と昔から言いますが、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とも言います。視野狭窄状態に陥り、備えの方向性を見誤ってしまうことにもなるでしょう。
というわけで、「役に立たない」語学学習を楽しむ余裕を持ちましょう!
o musi e toki pona!
※この記事の筆者はトキポナ初心者です。細心のそこそこの注意を払っておりますが、トキポナの思想に対する理解および文法等に誤りがある場合がございます。なにとぞご容赦ください。
この記事を書く上で思い出した関連動画。どっちもおもしろいよ。